北極海の保全と利用課題
環境にやさしい北極海の利用と基盤となる氷海変動の実態把握と予測

北極海では過去25年間に年間最低海氷面積が654万km2から437万km2に減少し、実に1,400km×1,400kmの開放水面が新たに生まれました。その広さは北極低気圧をも包括し、5m~6mにも達する高波がうねりとして海氷下を数百kmも伝搬し、広大な氷縁域を形成します。そして、流動の大きい北極海では、開放水面に浮遊する海氷は1年氷だけでなく、多年氷も存在します。北極航路に利用される開放水域は高い波高と厚い浮遊氷がハザードとなります。一方、沿岸域は永年的に海氷に保護されてきましたが、開放水面の広がりに伴い、沿岸浸食が急速に進行し、建築物倒壊、定着氷流出による冬季氷上交通路の喪失等、北極域の沿岸開発および先住民を含む北極社会に安全上の懸念が生じています。昨今の国際情勢を受けて、アジアヨーロッパを結ぶ北極航路利用が一時的に停滞しているものの、沿岸資源開発など新たな北極域利用の機運が高まりつつあります。本課題の目的は、日本社会そして北極圏社会における海洋開発に資する海洋情報を創出することです。特に、北極航路開発、そして沿岸開発の持続的発展に寄与することが期待されます。
文理融合、理工融合を実現する3つの研究テーマに取り組みます。数値シミュレーションや衛星データなどを活用し、氷海変動の予測を行うサブ課題1、「みらいII」を起点とする船体そして周辺海洋環境の観測を行うサブ課題2、そして、砕氷船設計技術革新・経済性評価と極域の環境保全に取り組むサブ課題3です。
(サブ課題1:氷海変動予測と社会)波浪・海氷変動予測、北極航路航行支援、沿岸短期・長期予測
(サブ課題2:氷海変動の実態把握)、海洋観測による工学的知見の取得及び運航支援、氷況計測の自動化及び高効率化、船体挙動モニタリングと海氷の関係把握、海氷の機械的特性データベースの構築
(サブ課題3:環境にやさしい氷海利用技術)、海氷・波浪・船体応答相関モデルの改善、氷海船舶用デジタルツインの開発、ゼロ・エミッション技術の応用による極域環境保全技術の提案、物流経済性評価
体制図を以下に示します。3つのサブ課題の連携により理工融合的な研究を遂行し、その成果を統合し、ADS・北極海氷情報室を介して、ステークホルダーに情報を提供します。また、得られた知見は沿岸コミュニティ課題・温室効果ガス課題・ガバナンス課題と共有し共同研究につなげます。一方、計算基盤の海洋情報を有効に活用します。
サブ課題担当者
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早稲田 卓爾(東京大学)
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松沢 孝俊(海上技術安全研究所)
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金野 祥久(工学院大学)