先住民課題
北極のグローバル変化における先住民のウェルビーイング実現に向けた協働探究

北極域の先住民は、厳しくも豊かな自然環境に柔軟に適応し、独自の知識や技術を発展させて暮らしてきました。しかし、植民地支配の歴史の中で、災害からの回復に重要な人と人とのつながりや、社会・文化的基盤が大きく損なわれました。さらに、現在では、公共サービスやインフラが行き届かない僻地に暮らしているため、生活基盤が気候変動の影響を真っ先に受けやすくなっています。一方で、北極先住民は北極評議会などの国際的な場において大きな発言力を持ち、彼らの政治活動や環境運動は、北極のガバナンスや環境管理に影響を与えています。
これまでの研究では、開発などの人間が環境を改変してきたところで、凍土や氷河の融解や異常気象による災害、生態資源の荒廃が深刻化することが明らかになっており、環境と人との相互作用という視点の重要性が指摘されました。また、グローバル経済や国際関係、情報化、移民の影響を受け、国家と先住民との関係に加え、先住民同士の国際的な連携、非先住民との関係、国際法や研究倫理の枠組みのなかで、彼らのウェルビーイングが実現することが分かりました。さらに、学問の世界でも脱植民地主義を目指し、研究者の一方的な知の奪取ではなく、先住民と研究者が対話と協働を重ね、伝統的な知識と科学的な知識を統合し、北極環境について新たな知を共に創り出すことが必要です。
そこで本研究では、気候変動が北極先住民社会に与える影響を、現地の人々および自然科学分野と協働しながら、グローバル経済や地政学的変化との相互作用の視点から明らかにすることを目的とします。そして、現在の社会的課題を彼らとともに考え、現状とウェルビーイングを実現するための方策を評価します。具体的には、①TEK(伝統的生態学的知識)と科学知を統合した資源の共同管理、②地域づくりとインフォーマル経済によるレジリエンスの評価、③オープンサイエンスと民族誌資料保全に関する研究倫理、という三つを軸に研究を進めます。この研究を通して、先住民を含めた北極域の多様性から、自然と人とのかかわりあいのあり方について、新しい可能性や希望を見出していきたいと考えています。
サブ課題担当者
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立川 陽仁(三重大学)
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大石 侑香(神戸大学)
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高倉 浩樹(東北大学)