生物多様性課題

北極域の⽣物多様性の将来予測と保全にむけた科学的基盤の確⽴

研究課題代表者:上野 洋路(北海道大学)

北極域は世界平均に比べて顕著に温暖化しており、海氷もこの数十年間にわたって大きく減少しています。これらの変化は、生物の生息域や生息数だけでなく、生物多様性にも影響を与えています。例えば、北極海では海氷減少に伴って海水温や海流が変化することで、亜寒帯性種や広域分布種が北極海内に移動する量が増加しています。また、北極陸域では、気温の上昇という直接的な影響に加え、無雪期間の変化や急速な氷河後退による新たな生息域の出現などの間接的な影響を生物多様性に与えています。

このように、まさに今変化している生物多様性を、より良く理解し将来予測をおこなうには、観測とモデルによる研究だけでなく、海底堆積物を用いた過去環境と生態系の復元が重要と考えられます。また、プラスチック汚染の実態把握は世界的な課題となっており、北極海にもマイクロプラスチックが流入していることが指摘されています。そこで本課題では、サブ課題1:北極海の生物多様性の時空間変動およびマイクロプラスチックの実態把握、サブ課題2:産業革命以降の環境および生物多様性の変遷の実態把握、サブ課題3:北極陸域における生物多様性の実態把握と環境への応答・相互作用プロセスの解明、の3つのサブ課題を設定し、北極域の⽣物多様性の将来予測と保全にむけた科学的基盤の確⽴を目指します。

本課題では、海洋・陸域観測、採取済みサンプル分析、統計モデル解析等、さまざまな手法を用いて、北極域生態系を明らかにします。具体的な実施内容は多岐にわたりますが、例えば、漁獲対象種を含む海洋生物の分布変化機構を解明するとともに潜在的な保全海域を推定する、海底コアを分析することにより、過去500年間の夏季海氷・太平洋水の流入・酸性化の程度・生物群集等の変化の復元を行う、北極ツンドラ生態系において温暖化による環境の変化が生物多様性に与える影響とその変化が生態系機能に与える影響を明らかにする、マイクロプラスチックの物質循環の実態把握を進めるとともに吸着・付着する化学汚染物質や微生物群集組成について明らかにする、などを計画しています。

また、沿岸コミュニティ課題、歴史課題、先住民課題、温室効果ガス課題、エアロゾル課題などさまざまな課題と連携し、戦略目標①・②・③の達成に貢献します。具体的には、歴史時代の北極海環境と極北の海洋民族の社会に関する連携などを検討しています。研究基盤としては、観測船 (みらい、みらいⅡ、おしょろ丸)による海洋調査、ニーオルスンにおける陸域調査を計画するとともに、北極域シミュレーションシステム による数値実験、北極域データシステム の活用を予定しています。

サブ課題担当者

海外連携機関

アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)/韓国極地研究所(KOPRI)/米国地質調査所(USGS)/北方研究センター(CEN)/南ボヘミア大学極域生態学センター(CPE)/アルフレッド・ウェゲナー研究所(AWI)

連携国際プロジェクト

中央北極海無規制公海漁業防止協定(CAOFA)