戦略目標③

戦略目標③

戦略目標統括役:⾚嶺 淳(⼀橋⼤学)

北極域では、自然環境だけでなく、社会の変化も急速です。北極域と日本や他地域とのつながりの多様性・複合性を理解し、関連する課題の解決への貢献を目指すのが戦略目標③です。「歴史課題」と「先住民課題」、「ガバナンス課題」の3つの課題が連携しつつ目標に向けた研究をおこない、個別研究の推進にあたっては、隣接する戦略目標②の研究群と相互協力することを想定しています。

厳しい自然環境にもかかわらず、北極域には8つの国家が存在し、そこには先住民をはじめ、多様な人びとが暮らしています。その事実が、本戦略目標の存在意義でもあります。温帯に暮らすわたしたちにとって、北極地域も、また、そこに暮らす先住民も、縁遠い存在かもしれません。しかし、気候変動——とくに地球温暖化——の影響を強くうけ、社会や生活に変化を迫られているのは、北極域に暮らす先住民です。またロシアによるウクライナへの軍事侵攻を契機として国際的な安全保障のあり方が変化した現在、北極域における国際政治は複雑な様相を深める一方にあります。その意味においても、「先住民課題」と「北極ガバナンス課題」は、まさに現代的な研究課題だといえます。歴史をさかのぼれば、中世の日本列島には、少量だとはいえラッコをはじめとした北方産物が輸入され、珍重されていました。近世にはいると、アイヌとの交易を通じて北方産物の輸入が拡大しました。注目すべきは交易民であるアイヌの仲介によって、より北方の先住民が採取した産物が日本列島に流入していた史実です。明治以降の日本国家の拡大によって、北方先住民との政治経済的関係は強化されました。

先住民、ガバナンス、歴史という視点を統合し、北極域の成り立ちと現状を分析することで、日本と北極域とのつながりの多様性・複合性があきらかになります。同時に現在の北極域が抱える課題も、わたしたち自身の課題であることが理解できるはずです。