戦略目標①

戦略目標①

渡邉 英嗣(海洋研究開発機構) 戦略目標統括役:渡邉 英嗣(海洋研究開発機構)

戦略目標①では、地球温暖化を支配する大きな要素としてエアロゾルと温室効果ガスに、その影響として気候災害と生態系にそれぞれ着目して、4つの研究課題を設定しました。地球温暖化の影響が最も顕著に現れている北極域での急激な自然環境変動は、中・低緯度を含む地球全体の気候や生態系に大きな影響を与えることが指摘されています。これまでも信頼性の高い気候変動予測に資する多くの知見が得られてきましたが、観測データの空白域·空白時期や数値シミュレーションの不確定性は十分に解消されておらず、最先端の技術を駆使した科学的研究を発展的に継続していくことがとても重要です。

戦略目標①では、分野横断型の観測と先進的なシミュレーションに基づいて北極域環境変化の科学的知見に基づく情報を創出していくことを目的としています。ここでいう「分野横断型観測」の例としては、人工衛星「GOSAT-GW」や北極域研究船「みらいⅡ」を活用しながら、大気-陸域-海洋にまたがる炭素や水などの循環を同時に明らかにしていくことが挙げられます。「先進的シミュレーション」としては、エアロゾルと雲に関するプロセスの高度化や沿岸浸食による陸域から海洋への物質流入を数値モデルに実装するなどが挙げられます。また広い意味では、気象や生態系の解析に機械学習を活用することも計画しています。対象とする研究テーマは海氷・炭素収支・生態系・極端気象・汚染物質など多岐に渡っており、互いに連動しているこれらの環境変化とそのメカニズムを包括的に明らかにすることによって、海運・農業・水産業・土地利用・保健衛生に関わるような情報を創出することを目指していきます。

エアロゾル課題では、大気-陸域-海洋にまたがるエアロゾルの動態の把握、およびエアロゾルと雲や気候変動との関係性について明らかにしていきます。温室効果ガス課題では、二酸化炭素CO2・メタンCH4・一酸化二窒素N2Oや関連する炭素・窒素循環について、大気中で変化する温室効果ガスの放出・吸収源を高精度に推定するとともに、北方林・氷河末端や海氷域で変わりゆく炭素循環の描像を明らかにしていきます。気候災害課題では、環北極域で起きている気候変動の要因や日本を含む中緯度に気候災害をもたらす極端現象の時空間的特徴を明らかにしていきます。生物多様性課題では、北極海やツンドラ地域の生物多様性やマイクロプラスチックなどの汚染物質、および産業革命以降の気候変動に関連する様々な環境変遷を明らかにしていきます。いずれの研究課題においても、日本の強みである高い技術や分野融合を活かし、ニーオルスン・アラスカ・北極海などでの観測や大気・陸域・海洋をそれぞれ対象とした数値シミュレーションを実施しながら戦略目標の達成に貢献していきます。

ArCS IIIの各研究課題間でも様々な連携が計画されており、例えば森林火災の要因となる乾燥化と陸域生態系変化の関係を明らかにするとともに、森林火災によって放出されるCO2やエアロゾルを同時に追跡することが挙げられます。また、海氷減少に伴って進行する海面でのCO2吸収および海洋生態系の変化や日本周辺まで含む水循環の強化などを総合的に明らかにすることも想定しています。これらは居住環境の変容や法整備といった人々の暮らしとも密接な関わりがあることから、戦略目標②・③との課題間連携も推進していきます。