公開日
ニーオルスンからのメッセージ2025「生物編」
ノルウェーのニーオルスン基地は、ArCS IIIの国際連携拠点の一つです。観測シーズンが到来し、今年も多くの研究グループがニーオルスンで観測をしました。ここでは、この夏に行われた生態系調査の様子をご紹介します。「エアロゾル編」と併せて、ぜひご覧ください。
執筆者:内田 雅己(国立極地研究所)
今年も夏の調査の時期がやってきました。今回は久しぶりにいくつかのチームが入れ替わりながら調査をします。
私たちの研究グループは、ニーオルスンに滞在する前に、ロングイヤービンで観測をするため、最初にニーオルスンの手前、一般航空路線で行くことのできるノルウェー最北の空港、スバールバル空港へ移動します。あいにく曇り空でしたが、着陸間際に少しだけ氷河を見ることができました(写真1)。既に北極に到着し、雛を育て始めているカオジロガンの邪魔をしないようにして、ロングイヤービンで調査を開始します(写真2)。
最初の調査は、地表面の状況を人工衛星で取得された情報を使って、広域に推定しようというものです。地表面には、いろいろな植物が生育しているため、代表的そうな場所で、写真を撮ったり、人工衛星と同じような光の反射特性や、植物の種類や量を調べます(写真3)。 今回は町中での調査でしたので、おしゃれな色使いの民家を目にしながら、測定や観察を進めました(写真4)。
ロングイヤービンでの調査が終わり、ニーオルスンへ移動します。この日も曇り空でしたが、コングス氷河を見ることができました(写真5)。
ニーオルスンでの最初の仕事は、早稲田大学の研究者による植物の根に関する研究です。植物の根から、どのような有機物がどれくらい染み出してくるのかを調べます(写真6)。
調査をするための装置を設置するのに半日、その後、翌日と翌々日に設置した装置を回収します。この作業を滞在期間中3回実施します。ロングイヤービンでも行った地表面の調査をニーオルスンでも実施します。直線距離にして100kmほどしか離れていませんが、地表面の様相が異なっているので、数十か所で調べます(写真7)。
北海道大学の先生と学生も植物に関する研究で初めてニーオルスンを訪れました。人工衛星から植物の光合成生産に関する指標が得られるそうですが、北極の植物の現状を知りたいとのことでした。野外に生育している小さな植物について、人工衛星と同じ指標を直接測定することで、人工衛星から推定される光合成生産に関する値の精度を高めることができるそうです(写真8)。
総合研究大学院大学の学生が、渡り鳥の営巣が土壌微生物の多様性にどのような影響を与えているのかを知るために、営巣地内で植物や土壌の環境を調べ始めました。人に付着している微生物を混入させないようにするために、手袋やマスクをして土壌をサンプリングしています(写真9)。
氷河の周辺には大小の池が多くあります。それらの池にいる微生物の機能を調べるため、水に含まれる遺伝子を採取します。池に滅菌したストローの先端を池に入れ、ポンプで吸引した水に含まれるDNAを特殊なフィルターで採取します(写真10)。採取したDNAが劣化しないようにするため、フィルターは冷凍して日本まで輸送します。