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アラスカ内陸部クロトウヒ林における植生調査および活動層土壌サンプリング
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執筆者:王 瑞昕(新潟大学 特任助教)
北極圏の永久凍土域における主要な優占樹種の一つであるクロトウヒ(Picea mariana)は、養分要求量が低く、根系が浅く広く分布し、生育速度が遅いという特徴があります。そのため、クロトウヒ林の森林構造は永久凍土環境や活動層の形成・発達に重要な役割を果たしています。しかし、地球平均を上回る速さで進む北極の温暖化(北極温暖化増幅:Arctic Amplification)に伴い、永久凍土の融解や活動層(永久凍土の表面にあり、夏に融解する層)の深化、さらに森林火災の頻発化が進んでいます。これにより、クロトウヒ林の植生構成、森林構造および更新能力に変化が生じ、永久凍土生態系における炭素循環へ大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
ArCS III プロジェクトの支援を受け、私はからまでの1か月間、米国アラスカ州フェアバンクスにおいて現地調査を実施しました。今回の調査では、クロトウヒ林の異なる林分密度(高密度・中密度・低密度)の試験区を設定し、林冠および林床植生の調査を行うとともに、活動層全体にわたる土壌縦断試料を採取しました。空間的不均一性の影響を低減するため、アラスカ大学の研究者との十分に相談したうえで、University of Alaska Fairbanks(UAF)および Poker Flat Research Range(PFRR)の2地点を調査地として選定しました。また、複数の採土方法を比較した結果、土壌圧縮の影響を最小限に抑えるため、活動層土壌の採取には手作業による切り出し法を採用しました。
現地調査の結果、林分密度の違いに応じて林床環境に明瞭な違いが見られました。低密度のクロトウヒ林では土壌含水率が高く、ミズゴケ属(Sphagnum spp.)の被覆率も高くなっていました。一方、高密度林では土壌が比較的乾燥しており、アカスギゴケ(Pleurozium schreberi)、ハイゴケ(Hylocomium splendens)、Labrador tea(Rhododendron groenlandicum)、Yellow star moss(Campylium stellatum)、クラウドベリー(Rubus chamaemorus)、トナカイゴケ(Cladonia rangiferina)など、多様な林床植生が確認されました。最終的に、活動層の土壌縦断試料18本を採取することができました。
今回の海外調査を通じて、北極永久凍土域における植生分布や森林構造について理解を深めるとともに、今後の研究に向けた基盤を作ることができました。今後は、採取した活動層土壌を用いて、土壌中の炭素・窒素・リン各成分の鉛直分布特性を解析し、活動層における養分動態が土壌微生物による炭素鉱化(carbon mineralization)に及ぼす影響を明らかにすることを目指します。本研究を通じて、気候変動下における北極永久凍土生態系からの潜在的な炭素放出を予測するための基礎的知見を得ることが期待されます。