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北ユーコン亜寒帯地域における火災後永久凍土進化のフィールドワーク
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執筆者:Cao Zetao(北海道大学 理学研究院 博士課程2年)
日本語訳:古屋 正人(北海道大学)
からにかけて、北海道大学の古屋 正人先生及びJAXAの柳谷 一輝博士とともにカナダ・ユーコン準州北部を訪れ、デンプスター・ハイウェイ沿いの亜寒帯森林地域において、火災後の永久凍土進化を調査する現地観測を実施しました。これらの地域は森林火災の多発地帯であり、火災撹乱後の永久凍土の地盤変動過程を明らかにすることが目的です。
本調査の目的は、異なる火災経過年数の焼失跡で顕著な地盤変動パターンを示した干渉合成開口レーダー(InSAR)解析の結果を、現地観測によって検証することでした。InSARデータは、火災後の永久凍土が初期の融解沈下から徐々に隆起、そして安定化へと進行する可能性を示していました。ArCS III若手人材海外派遣プログラムの支援により、融解深、地温、地中氷、植生被覆などの現地測定を通じて、これらの衛星観測データを検証し、地表変動のメカニズムを理解する機会になりました。
札幌からカナダ・ユーコン準州のホワイトホースまで三度の航空便を乗り継ぎ、その後アラスカ・ハイウェイとデンプスター・ハイウェイを二日間走行したのち(写真1)、地域内で唯一の宿泊施設があるイーグル・プレインズに到着しました。ここを拠点とし、イーグル・プレインズの南西約30~70kmに位置する焼失地および未焼失地に毎日赴きました。
調査地点は事前解析に基づいて選定し、地盤変動特性、植生状態、地形条件が大きく異なる場所を含むよう配慮しました。フィールドサイトは、過去10年以内に火災が発生した地点から、30年以上前に焼失した地点まで、火災後経過年数の勾配を含んでおり、類似した環境条件下で異なる永久凍土の進化段階を捉えることができました。
各地点では、永久凍土及び植生に関する系統的な調査を実施しました。永久凍土の評価として、金属プローブを用いてアクティブレイヤー(非凍結層)の厚さを測定し、土壌ピットを掘削して凍結層に達するまで5cm間隔で地温を測定しました。いくつかの地点では、土壌中の水分が凍結して膨張することで形成される層状の氷(氷レンズ)が確認され(写真2)、また、地盤が凍結する際に土粒子間の微小な空隙を満たす細孔氷も見られました。
また、各地点での植生回復過程も記録しました。植生の種類は火災後の経過年数と明確に対応していました。最近の焼失地では初期遷移段階のスゲ類が優占し(写真3)、火災後の期間が長い地点では、再生したクロトウヒ林とともに、より密な低木植生が広がっていました。
本調査で得られた現地データは、衛星観測のInSAR によって推定された地盤変動と統合解釈するために活用します。フィールドデータとリモートセンシング情報の組み合わせにより、植生回復、腐植層の厚さ、永久凍土ダイナミクスの関係をより明確に説明できるようになります。
総じて、今回の北ユーコンでの現地調査は非常に有意義であり、火災後の長期的な永久凍土変動の理解に貴重な知見を与えてくれました。本調査はリモートセンシング解析の検証にとどまらず、植生遷移・永久凍土状態・地盤変動の相互作用に対する理解を深めるものとなりました。これらの成果は、撹乱による永久凍土進化のモデル化や、今後の温暖化下における北極周縁域の地形応答の予測改善に大きく貢献するものです。