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アラスカの森林における樹木根調査
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執筆者:橋本 裕生(信州大学大学院 総合医理工学研究科 博士課程2年)
2025年8月から9月にかけて、アラスカ大学フェアバンクス校とその周辺の森林で、永久凍土の融解が森林の根の活動にどのような影響を与えるのかを調査してきました。温暖化が進む中で、これまで長い間凍ったままでいた永久凍土が融け出しています。今後、森林の土壌がどのように二酸化炭素を放出あるいは吸収するのかを理解し予測することは、地球規模の気候変動を考えるうえで重要な課題です。今回の渡航では主に、永久凍土の融解状態が異なる複数の森林で、クロトウヒという北米大陸に広く分布している常緑針葉樹の根について調査を行いました。(写真1)
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写真1:永久凍土上のクロトウヒ林
根の呼吸を通じて放出される二酸化炭素を測定し、土壌環境の違いが根の成長や養水分吸収に与える影響を調査しました。その他に、根に含まれる化学物質の測定や、画像解析による根の形の違いを調べました。(写真2、3)
その結果、永久凍土が融けて土壌が乾燥した場所では根の呼吸速度が特に高いことがわかりました。一方で、永久凍土が融解しても土壌の水分量が多い場所では根からの二酸化炭素放出速度は低いことがわかりました。これにより、単に土壌温度が上がるだけではなく、土壌の水分量や地形の違いといった様々な要因が森林の根の活動や二酸化炭素の放出量に大きく影響していることがわかりました。
滞在中には、アラスカ大学の研究者とも意見交換を行い、調査結果の解釈や今後の研究の進め方について多くの助言を得ることができました。この経験を通じて、国際的な共同研究の基盤を築くことができたのも大きな成果です。今回得たデータをもとに、北方林が地球の炭素循環にどのような役割を果たしているのかをさらに明らかにしていく予定です。加えて、アラスカで研究を行っている日本人研究者や現地の研究者と密に協力し、より広い地域での樹木根の研究を行っていきたいと考えています。