公開日
グリーンランド北西部における水中マイクの設置・回収作業と目視調査
投稿日:
執筆者:金 紗羅(京都大学 理学研究科 修士1年)
ArCS III若手人材海外派遣プログラムの支援を受け、グリーンランド北西部カナック村に滞在し、周辺海域における水中マイクの回収・設置作業、海棲哺乳類の目視調査、海洋観測、イッカク猟での水中音の録音を行いました。
気候変動によりグリーンランドの氷河や氷床の融解が急速に進み、海洋生態系の変化が懸念されています。こうした影響を評価するには、海棲哺乳類など高次捕食者との関わりを把握することが重要です。北極域固有種のイッカクは、採餌や社会行動の際に高周波の鳴音を用います。一方で、無氷期間の長期化に伴って増加する船舶活動や氷山崩壊に由来する水中音は、イッカクの鳴音で利用される周波数帯と重なり、コミュニケーションや行動に影響を及ぼす可能性があります。また近年、この海域では気候変動により、シャチなどの海棲哺乳類の出現の増加といった生態系の変化も懸念されています。
そのため本研究では、受動的音響モニタリング(PAM)を実施しています。これは係留型の水中マイクを設置し、海棲哺乳類の鳴音や氷河崩壊音、船舶音などを長期間記録する手法であり、これは現地に人がいなくても長期間の観測が可能です。音響記録は2019年からカナック村周辺海域で継続しており、今回の派遣では、昨年度より設置していた水中マイクを回収してデータを取り出し、機器の交換を行った上で再設置しました(写真1)。
海洋観測に同行した際は、各地点で水温・塩分・濁度の測定やプランクトン採集を行いつつ、船上からマイクを沈めて表層の環境音を録音しました(写真2、3)。
また、イッカク猟に同行し、彼らの伝統的な狩猟に立ち会うとともに、イッカクの目視観察と鳴音記録を行いました(写真4、5)。1度目の猟では、出現から数時間にわたり約100頭以上を観察し、水中からは賑やかで多様な鳴音を記録できました。
今後は、2019年以降のPAMによる長期間の音響データを主軸に、イッカクをはじめとした海棲哺乳類の鳴音や生息域の水中環境音などの解析を進めていく予定です。
最後に、本派遣にあたり多大なるご支援をいただいたArCS IIIプロジェクトの関係者の皆さまに、この場を借りて心より御礼申し上げます。
