活動報告

トロムソ(ノルウェー)でのサマースクール2025

公開日

トロムソ(ノルウェー)でのサマースクール2025

サマースクール集合写真

2025年6月下旬、ノルウェー北極大学において、ヨーロッパ、アメリカ、日本の学生や若手研究者を対象に、北極に関わる人材育成を目的としたサマースクールが開催されました。ガバナンス、安全保障、気候環境の三分野についての講義やディスカッション、発表が行われ、北極圏に関する学際的な学びと国際的な交流が深められました。本プログラムには、ArCS III特任助教2名も参加しましたので、その様子をお伝えします。


北極圏をとりまく自然・人文・社会科学の統合的な理解を目指して

投稿日:

執筆者:吉田 淳(国立極地研究所)


からまで、ノルウェー北極大学(UiT: The Arctic University of Norway)で開催された、笹川平和財団とUiT共催の北極サマースクールFuture Leaders of the Arctic Summer Schoolに参加しました。サマースクールでは自然科学も一部扱われたものの、主たるテーマはガバナンスと安全保障であり、大気科学を専門とする私にとって、その大半は未知の領域でした。北極研究に携わるようになって以来、北極環境を取り巻く国際情勢や社会科学的な議論が自分の研究にもじわじわ関係しているという感覚はあったものの、その実像ははっきりとは掴めていませんでした。自分に無関係とは言えなさそうだけれど、うまく言語化できない何か、を理解するため、今回のサマースクールに臨みました。

外交、安全保障、歴史的経緯といった領域は、私にとって別世界でした。しかし、分量・内容ともに充実していた事前資料を予習したおかげで(実はこれがサマースクールを通して一番大変だった)、異分野の講義にもほとんど取り残されませんでした。また、講師陣の丁寧な説明に加え、参加者同士の活発な議論、さらには講義外での気軽な会話の積み重ねにより、少しずつ理解を深めることができました。

講義を通して印象に残ったのは、北極はもう国際政治から切り離された特別な地域(北極例外主義)ではなく、地政学的な緊張に巻き込まれているという講師たちの共通した見解です。海氷の融解と同様に、北極を取り巻く地政学的環境も後戻りできない段階に入っていると実感しました。一方で、スバールバル諸島(ノルウェー)のガバナンスや歴史的背景、そして関連するノルウェーの立ち回りについての話も興味深かったです。私は過去にスバールバル諸島にあるニーオルスン基地に訪れ、大気観測に携わった経験があります。これまで研究のフィールドとして見ていた場所に、実は複雑で独自の国際政治が絡んでいることは印象深かったです。

今回のサマースクールでは、講義はガバナンス・安全保障・自然科学の三つに大きく分類されていましたが、多くの講義がこれら三要素を同時に含んでおり、程度の差こそあれお互いに関連しあっていました。そして、こうした複雑に絡み合った状況だからこそ気候変動が地政学を変え、その地政学が自然科学の研究の方向性に影響を与え得るという構造を生み出していると感じました。

サマースクール後半には、参加者同士でグループを組んで政策提言書を作成するグループワークが行われました。私のチームが選んだテーマは「北極における海底ケーブルの保護」です。海底ケーブルの損傷・攻撃事例のレビュー、国際法の限界、地政学リスク、そして環境影響まで多角的に整理し、NATO諸国に向けた政策提言としてまとめました。

私はグループの中で唯一の理系人間として、海底ケーブルの環境影響および科学的知見の整理を担当しました。海底ケーブルの影響評価は専門外ですが、理学の博士号を持つ私に対してメンバーが寄せてくれた期待と信頼はありがたく、同時に強い責任を感じました。普段の研究は自然科学を深く理解することが目的ですが、そこから一歩踏み込み、政策に反映させるプロセスを実体験できたのは大きな収穫でした。今後、北極を含む環境問題の解決に科学者として関わる際にも、この時に感じた責任感と緊張感を忘れずにいたいです。

余談ですが、2025年の国立極地研究所の一般公開の北極ブースでは、来場者とお話しをする機会に多く恵まれました。中には国際情勢に関する話題も上がり、本サマースクールで得た知識(例えば、グリーンランドでの資源開発をめぐる国際動向など)が非常に役立ちました。自然科学の話題だけでなく、社会科学的な背景も併せて説明でき、サマースクールの成果を実感する機会となりました。

自然科学だけでも人文・社会科学だけでも北極問題を語ることはできません。科学と政策が互いに影響し合う北極というフィールドで、自然科学者としてどのように関わるべきか。その答えを探し始めるための、非常に良い出発点となったサマースクールでした。


ノルウェーでのサマースクールにて北極圏を取り巻く課題を学びました

投稿日:

執筆者:田邊 智子(国立極地研究所)


北極圏を取り巻く安全保障や自然環境の課題について学ぶサマースクールに参加しました。開催地はノルウェーの北緯69度、「北極圏」に位置するトロムソという町です。笹川平和財団とノルウェー北極大学の共催により実施され、笹川平和財団にご支援いただき参加しました。8日間にわたるサマースクールの前半は、地政学や戦争の歴史、北極海の熱循環などについて各分野の専門家による講義を受けました。後半は受講者がグループに分かれて一つトピックを決め、ディスカッションを経て政策提言書としてとりまとめて発表しました。

トロムソに到着したのは6月下旬でしたが、空港周辺のタンポポはまだ蕾の状態で、ずいぶん涼しいところに来たことを実感しました。講義を通して、特に忘れられないトピックは軍事的緊張の高まりです。ロシアのウクライナ侵攻や北極圏における軍事基地再開に伴い、緊迫した現実が各国の方針を一つずつ変えている現状を多面的に認識しました。そのうえで、”Keep the low tension in the Arctic”, “How to de-escalate”と強調されていた専門家お二人の講義内容が大変こころに残っています。また、一つの絶対的な正解は無いということを理解するとともに、様々な意見を持つ人たちが対話を続けることの大切さを改めて感じました。

より深く理解したいトピックとして、わたしたちのグループは、グリーンランドでの鉱物掘削を選びました。講義の中でグリーンランドは、安全保障における地理的な重要性だけでなく、手つかずの鉱物資源に富むという点で各国からの熱烈な関心を集めていることを知りました。さらに、他国からの関心に対して“Nothing About Us Without Us”という言葉を掲げ声を上げる先住民の立場を学びました。経済と環境保全、持続可能な暮らしとのバランスは、時代や地域を問わず意見が対立する課題であると思います。資本と引き換えに、現地の人たちが一方的に搾取されることのないよう、ほんとうの持続可能とは何かを考えながら、様々な地域での事例や法律を参照して議論を重ねました。グループは5人で、専門はそれぞれ国際法や先住民の権利、安全保障、海や陸の生態学と幅広く、文化的背景も多様でした。一人では気がつけない論点も、5人集まるだけで視野が広がり、議論が深まっていく過程が面白く、意思決定の場において、多様な視点が不可欠であることを改めて体感しました。

夜ご飯をリュックサックに入れて、白夜の山をみんなで登りに行ったことも良い思い出です。歩き始めて何時間経っても日は暮れず、太陽が山から山へ、ただ横に動いているように見える様子を眺めながら、雲や地形の話を聞いている時間が楽しかったです。北極圏の緊迫した課題に対して、非北極圏に暮らすわたしには何が実践できるのだろうかと考え続ける一週間でした。


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