活動報告

グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2026

公開日

グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2026

沿岸コミュニティ課題では、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2026年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。


ボードイン氷河での観測報告

投稿日:

執筆者:矢澤 宏太郎(北海道大学)、波多 俊太郎(国立極地研究所)、杉山 慎(北海道大学)


グリーンランド北西部では氷河末端が海に流れ込む「カービング氷河」の融解が進んでいます。この変化には、カービング(氷河末端から氷塊が分離する現象)が大きな役割を果たしています。そこで、カービング氷河の融解とカービングのプロセスを明らかにするため、の5日間、グリーンランド北西部ボードイン氷河末端付近でキャンプをしながら観測を行いました(写真1)。

キャンプ地までは地元のハンターにボートでの輸送を依頼しました。また野生動物に遭遇した時に備えて、銃の扱い方を学びました(写真2)。

銃の講習会の様子

写真2:銃の講習会

氷河の短期的な変動をとらえるため、2台のドローンを使って氷河末端域を2時間おきに測定しました(写真3)。高い頻度での測量から、カービング(氷山分離)やプルーム(氷河底からの湧昇流)を観測することができました(写真4、5)。大潮のタイミングに合わせて行った観測により、潮汐ちょうせきによる氷河の応答を理解することが期待されます。ドローンの他にも、タイムラプスカメラを使って氷河末端を1分間隔で撮影し、カービングによって発生する音を音響センサで記録しました。これらのデータを解析することにより、カービングの発生位置と頻度を明らかにすることが期待されます。

ドローン測量の様子

写真3:ドローン測量

目の前に広がるカービング氷河の迫力には、非常に圧倒されました。キャンプ地では、氷山が分裂する音や海鳥の鳴き声が聞こえ、まるでグリーンランドの大地に抱かれているような気分になりました(写真6)。カービング氷河のそばでキャンプすることで高揚感が絶えず、解析の意欲がより高まりました。

キャンプ地の様子

写真6:キャンプ地


北西グリーンランドのカナックにおける氷河微生物と鉱物の調査

投稿日:

執筆者:ファーロング イーサン ジャック(北海道大学)


私はカナダ出身で、北海道大学の修士課程1年に在籍している留学生です。今回が初めてのグリーンランド訪問でした。指導教員である植竹淳教授とともにカナックを訪れ、氷河表面に生息する微生物群集と鉱物について調査を行いました。

私の研究では、氷河周辺に存在する鉱物(鉱物粒子)の組成が、氷河微生物群集の構造に影響を与えるかどうかを明らかにすることを目的としています。そのため、氷河上で直接、培養実験を行いました。カナック氷河から採取した微生物を、氷河のモレーン、グリーンランド氷床、そして氷河氷内部の暗色帯から採取した古い鉱物とともに培養しました(写真1、2)。時間の経過に伴う試料の変化を分析することで、異なる鉱物への長期間の曝露ばくろが、これらの微生物にどのような影響を与えるのかを明らかにしたいと考えています。

カナック氷河上での培養実験

写真2:カナック氷河上での培養実験

カナック氷河には、明るい帯と暗い帯が交互に見られますが、その形成過程や色の違いについては、まだ十分に分かっていません。鉱物粒子が暗い色の原因の一つである可能性があります。これらの帯を調べるため、電動チェーンソーを使って氷河から氷のブロックを切り出しました。これらの氷試料から回収した鉱物は、今後詳しく分析する予定であり、氷河上での培養実験にも使用しました。

また、カナック氷河内の複数の地点で、氷河表面の試料を採取しました。さらに、植竹教授はカナック村周辺の微生物群集にも関心を持っています。そのため、毎日大気試料を採取したほか、海水と、近くの融解水の流れからも試料を採取しました。

カナックを離れる前には、ボードイン・フィヨルドに位置するカコルタック氷河を訪れ、追加の氷河表面試料と鉱物を採取しました。この氷河の周辺には鉄を多く含む鉱物が存在しており、周囲の景観が赤みを帯びていることが特に印象的でした。近くの海水や融解水も、暗い赤褐色に見えました。

今回のカナック滞在は、私の研究にとって非常に有意義なものでした。氷河微生物や北極圏でのフィールドワークについて、多くのことを学ぶことができました。また、グリーンランドの文化に触れ、多くの地域住民の方々と交流する機会も得られました。研究者と地域社会が知識を共有し、将来的に私の研究成果を現地で暮らす方々に伝えるためにも、このような関係を築くことは重要だと考えています。


2026年夏のカナック氷帽。白い。

投稿日:

執筆者:西村 基志(信州大学)


沿岸コミュニティ課題氷河班気象グループに所属しております、信州大学の西村です。

私は沿岸コミュニティ課題の氷河調査班先発隊の一員として、に出国し、予定どおりに調査拠点であるカナック村に到着しました。個人としては、2年ぶり4回目のカナック村への渡航です。相変わらずカナック村は涼しく、静かで落ち着きます。過去の滞在記は、以下のリンクからご覧ください。

グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測2024│ArCS II 活動報告

さて、今夏の気象班はカナック村の北にある「カナック氷帽」という氷河の標高950m地点(SIGMA-Bサイト:写真1)に設置してある自動気象観測装置(AWS:Automatic Weather Station)のメンテナンスおよび氷河表面の積雪や氷の状態を調べる現地調査を実施しています。

写真1:カナック氷帽上に設置してある気象観測装置SIGMA-B

にSIGMA-Bサイトへ調査に行きましたが、積雪深は90cm程度でした。2024年の同じ時期には積雪はほとんど無かったので、年による積雪量、氷河表面状態の違いに驚いています。

また、現地で回収したデータ(図1)を見てみると、今年の6月中旬の気温は比較的高かったようですが7月上旬の気温は2025年と同様に低かった模様です。の表面高度を0cmとした時の相対表面高の推移を見ると、著しい表面低下、つまり、氷河の融解が起こった2023年に比べては言わずもがな、あまり解けなかった2024年、2025年に比べても今年(2026年)の執筆時点()まではほとんど融解が起こっていないことが分かりました。

図1:SIGMA-Bサイトにおける2023年から2026年の夏(6-8月)の気温および相対表面高の日データの変動(速報値)。気温の薄いプロットは日平均値、濃いプロットは5日間移動平均値。

データからの裏付けどおり、今年の滞在期間は気温が低く、また、曇天が多い印象です。この後、さらに気温が上がり、氷河の融解が進むのか、それとも今年は冷夏で融解が進まないのか、天候と氷河の状態を間近で観察しつつ、引き続き調査を行っていきたいと思います。


グリーンランドでの調査が始まりました!

投稿日:

執筆者:中山 智博(北海道大学)


にグリーンランド北西部・カナックにArCS III沿岸コミュニティ課題の観測隊の第1陣として到着し、現地調査・観測を開始しました。

カナックは日本から直線距離で約6500kmでハワイやインドと同じくらいの距離のため、北米やヨーロッパよりも近場ですが、実際にはその2.8倍もの距離を4日間かけて移動してようやく辿り着くことができます(図1)。カナックまでの道中では北極点を通り過ぎ、「北極点通過証明書」をもらいました(図1右上)。今年は天候が良く、一度も足止めされることなくカナックに辿り着くことができました(図1右下)。

図1:カナックは日本から直線距離で6,500kmですが、実際に移動すると何度も飛行機を乗り継いで4日間かけて18,000kmもの長い道のりをたどることになります。

カナックは北緯77度に位置しており、夏の時期は太陽が地平線に沈まない白夜の時期になります(写真1)。そのため、深夜でも明るいのでシェードを下ろしてアイマスクをつけて就寝します。気温は0~10℃です。

到着した日は村の前に海氷がびっしりと密接していて海氷の上を歩くことができたので、村を海氷の上から見渡し、村の人のイッカク猟を見学するという貴重な経験ができました(写真2)。

写真2:海氷上から見たカナック村(右)とカナック村の前の海氷(左)

到着した当日は補給船が到着する前日で、村唯一のスーパーの品揃えもかなり良くなかったのですが、徐々に品数が増えてきました。カナックでは観測隊のメンバーが持ち回りで自炊をして食事をするので、スーパーの品揃えが良くなるにつれて食事のバリエーションも豊かになり、観測後の楽しみが充実しています(写真3)。

写真3:野外観測の後の夕食はとても重要です。持ち回りで自炊をしておいしい夕食をみんなで食べて楽しみます。

また、この記事を執筆している現在では村の前のフィヨルドからは海氷がほとんどなくなり、村の人はボートを出したりホッキョクイワナの漁に出たりと、村の人々の活動も一段と活発になってきています。この活気に負けないよう、各々の観測を進めていきたいと思います。


関連リンク

沿岸コミュニティ課題│研究課題 国際連携拠点|研究基盤

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