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人間圏への影響が顕在化する陸域環境変化に関する広域的可視化とその活用
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執筆者:蟹江 俊二(北海道科学大学)、阿部 隆博(京都大学)、斉藤 和之(JAMSTEC)
陸域人間圏課題のサブ課題1:「永久凍土の融解・温暖化がもたらす社会生活基盤への影響評価」では、地球温暖化の下での近年の環境擾乱 (通常の状態からのずれや乱れ、ゆらぎ)が永久凍土の融解にどのような影響をもたらすのかに着目して研究を行っています。
研究対象領域として選定したのは、アラスカのほぼ中央部にあるフェアバンクスの北東約35kmにある観測サイトPoker Flat Research Range(アラスカ大学フェアバンクス校)です(写真1)。この地域の地下には永久凍土が存在しているものの、河川の氾濫・森林火災や積雪などによる自然環境の変化に加え、研究施設や観測装置等の建設・整備・管理等に伴う人工伐採などさまざまな時空間規模の環境擾乱 が混在しており、温暖化がもたらす複合的な影響が観測できるところに大きな特徴があります。
現地での調査開始は
永久凍土の融解深を計測する代表的な手法は測深棒による探査です(写真2)。地表面から長さ最大2mに及ぶ測深棒を押し込み、凍結した地盤に先端を到達させることで融解深を計ります。永久凍土地帯表面を覆う独特の柔らかい植生層に足を取られながらも、数十回に及ぶ地道な作業の繰り返しで融解深を計測しています。降水量の増加はどのような場所で融解深を促進させるのかといった脆弱性の評価と同時に、森林火災跡地の植生層の回復が永久凍土の保全にどのような役割を果たしているのかなど、観測・計測結果の解析や数値モデル計算に基づく多角的・多面的な評価につなげていこうと考えています。
また、サブ課題2:「地表面観測高度化による自然と人間活動の変動検出」では、北極域における広域環境変動情報の集約化のため、人工衛星画像などを先端的なデータサイエンス技術で分析し、従来は得られなかった地表面状態変化の広域的可視化に関する知見を得ることを目的として研究を行っています。
今回は、永久凍土上における植生分布と凍土環境の関係性について現地調査を行いました。例えば、衛星光学画像上から見て明らかに明るい緑色の箇所では、高木はほとんどなく湿地性の草本類が分布しており、膝近くまで水没する程度の池のようになっていることがわかりました(写真3)。また、フラックスタワー周辺ではまばらなクロトウヒが分布しており、その隙間からコケ類や地衣類が姿を見せていて(写真4)、それらは地表面近傍の微環境の違いを表している可能性があることがわかりました。一方、北西側のチャタニカ川へ近づくと、大きく育ったクロトウヒが密に生育しており(写真5)、こちらは永久凍土がほぼないとエリアだと考えられています。
このようにポーカーフラット内を見渡しても、人為的な環境変化のみならず、多様な自然環境の違いが異なる植生分布を生み出していることがわかりました。今回の調査をベースにAIによる植生分布図を作成し、実際の凍土環境との関係性について調べていこうと考えています。