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トロムソ(ノルウェー)でのサマースクール2025

2025年6月下旬、ノルウェー北極大学において、ヨーロッパ、アメリカ、日本の学生や若手研究者を対象に、北極に関わる人材育成を目的としたサマースクールが開催されました。ガバナンス、安全保障、気候環境の三分野についての講義やディスカッション、発表が行われ、北極圏に関する学際的な学びと国際的な交流が深められました。本プログラムには、ArCS III特任助教2名も参加しましたので、その様子をお伝えします。
ノルウェーでのサマースクールにて北極圏を取り巻く課題を学びました
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執筆者:田邊 智子(国立極地研究所)
北極圏を取り巻く安全保障や自然環境の課題について学ぶサマースクールに参加しました。開催地はノルウェーの北緯69度、「北極圏」に位置するトロムソという町です。笹川平和財団とノルウェー北極大学の共催により実施され、笹川平和財団にご支援いただき参加しました。8日間にわたるサマースクールの前半は、地政学や戦争の歴史、北極海の熱循環などについて各分野の専門家による講義を受けました。後半は受講者がグループに分かれて一つトピックを決め、ディスカッションを経て政策提言書としてとりまとめて発表しました。
トロムソに到着したのは6月下旬でしたが、空港周辺のタンポポはまだ蕾の状態で、ずいぶん涼しいところに来たことを実感しました。講義を通して、特に忘れられないトピックは軍事的緊張の高まりです。ロシアのウクライナ侵攻や北極圏における軍事基地再開に伴い、緊迫した現実が各国の方針を一つずつ変えている現状を多面的に認識しました。そのうえで、”Keep the low tension in the Arctic”, “How to de-escalate”と強調されていた専門家お二人の講義内容が大変こころに残っています。また、一つの絶対的な正解は無いということを理解するとともに、様々な意見を持つ人たちが対話を続けることの大切さを改めて感じました。
より深く理解したいトピックとして、わたしたちのグループは、グリーンランドでの鉱物掘削を選びました。講義の中でグリーンランドは、安全保障における地理的な重要性だけでなく、手つかずの鉱物資源に富むという点で各国からの熱烈な関心を集めていることを知りました。さらに、他国からの関心に対して“Nothing About Us Without Us”という言葉を掲げ声を上げる先住民の立場を学びました。経済と環境保全、持続可能な暮らしとのバランスは、時代や地域を問わず意見が対立する課題であると思います。資本と引き換えに、現地の人たちが一方的に搾取されることのないよう、ほんとうの持続可能とは何かを考えながら、様々な地域での事例や法律を参照して議論を重ねました。グループは5人で、専門はそれぞれ国際法や先住民の権利、安全保障、海や陸の生態学と幅広く、文化的背景も多様でした。一人では気がつけない論点も、5人集まるだけで視野が広がり、議論が深まっていく過程が面白く、意思決定の場において、多様な視点が不可欠であることを改めて体感しました。
夜ご飯をリュックサックに入れて、白夜の山をみんなで登りに行ったことも良い思い出です。歩き始めて何時間経っても日は暮れず、太陽が山から山へ、ただ横に動いているように見える様子を眺めながら、雲や地形の話を聞いている時間が楽しかったです。北極圏の緊迫した課題に対して、非北極圏に暮らすわたしには何が実践できるのだろうかと考え続ける一週間でした。
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講義の様子
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白夜のハイキング、Fløya山からの眺め